読了「マタギ 矛盾なき労働と食文化」

先月、大館・北秋田芸術祭2014のスタッフとして働く知人の元を訪ねたのが、「マタギの里」として有名な秋田県の阿仁地区であった。

 

訪問するまでは特に意識もしておらず、こう言ってはなんだが、気候帯(当地は世界でも有数の豪雪地帯らしい)やその影響に因る植生が違うくらいで、大きな意味では大差のない閉鎖的な日本の田舎なのではないかと思っていた。

実際に、現地を訪問して、秋田内陸縦貫鉄道に乗車した際も延々と続く田園地帯を見ている限りは、他の、いわゆる田舎と呼ばれる地域の景色と大きな差はないように感じられた。

 

だが、現地で知り合った大学生(彼らは住み込みで現地の人達と芸術祭の準備に関わり、その過程で色々な話を聞いていたい)から、現地の人と共に仕事をする中で聞いた話を又聞きするうちに、俄然その地域、と言うか「マタギ」という言葉に惹かれ出した。

 

最も印象に残ったのは、マタギの狩猟対象である熊(芸術祭のシンボルにもされている)、その熊から取れる熊の胆は昔から薬として重宝がられ、「熊の胆一匁、金一匁」と言われ、金と同価で取引されていたという。

 

その換金性から、マタギは熊を追い、熊の胆を売るために、遠くはロシア(正確にはサハリン辺りらしい)までも出かけることがあったと言う。

 

一般的に閉鎖的、保守的とされる日本の田舎にあって、何というグローバルな動きだろう!

 

と、その時話を聞いていて、是非マタギから話を聞いてみたいと思ったのだが、その時は特にアポも取っているわけでもなく、時間も無かったので、断念。

 

改て、本書の様にマタギに書かれた本を読み、その文化に触れているところである。

 

ちなみに、その時に聞いた話では、(サハリンは時代によっては日本統治下のことも含まれているのかもしれないが)時代によっては北海道、ロシア(サハリン)という地域は政治的にも言語的にも日本ではないため、そういった地域の人と交渉して、熊の胆を売ったり、現地で行動するに当たっては当然言語能力や交渉能力が求められる。

当地ではその地域を一瞥しただけでは(私が感じたように、雪のない季節のせいもあるかも知れないが、日本の他の地域と大きな違いが感じられない)想像もつかないほど、知能の高い人が多く、実際に高学歴で東京に出て行った人も多いとの事だった。

 

大分前段で話を取ってしまったが、本書に関してはきっかけは別にしても、私と同様にマタギに興味を持った著者が、実際にマタギと知り合い、長い年月をかけて猟に同行させてもらった時の経験を基に書かれている。

 

猟については、マタギと言われてすぐに想像される熊にかぎらず、ウサギ、川魚、キノコと、換金性に富んだ獲物に限らず、今と違い物流などの面から食料確保に制限のあった当地における生活に必要な資源の獲得や、その扱いに関する文化的な面も書かれている。

 

本書の前に読んだ、田口洋美氏の著作「マタギを追う旅 ブナ林の狩りと生活」では、地形的な描写や文化的な背景の推察のために実際に調査を行ったり、資料を作成して学術的な雰囲気が漂っていたのと違い、本書は基本的に著者の経験に基づいて書かれており、特定のマタギとの付き合いに重点を置かれた描写はどちらかと言うとブログを読んでいる感覚に近かった。

 

どちらの著作とも、描写する側面は違えど、基本的に伝える点は大きく異なってはいないように感じたので、合わせて読むとより理解が深められると思う。

 

マタギ 矛盾なき労働と食文化

マタギ 矛盾なき労働と食文化

 

 

 

マタギを追う旅―ブナ林の狩りと生活

マタギを追う旅―ブナ林の狩りと生活