前回に引き続き、三重県のとある町を訪れた時に感じたことを。
これはその訪問時に町を案内してくれた地元出身の男性が僕に語ってくれたアイディアについて感じたものだ。
彼は僕よりも5歳ほど年下で、現在は20代半ばである。
彼はその町で生まれ育ち、ご多分にもれず、大学は近くの大都市である名古屋市内にある大学に通っていた。
就職の時期が近づき、町の外に出る機会を得たとこで改めて生まれ育った町が好きだということに気づいた彼は、一方で大多数の地方の現状のご多分に漏れず、地元に戻った時の安定した職場が役場(公務員)かJAなどの地域金融機関しかないことに疑問を抱く。
そんな中、彼は地域の中小企業で学生が長期インターンに取り組む機会を与えているNPOと出会う。
そこで、彼の地元でも働き手を募集している企業があることを知り、実際に彼はそこでインターンシップを始めた。
地元に戻る機会を得た彼は、その機会を活かし、それまでは参加したこともなかった地元の祭りの準備などにも関わるようになる。
結果的に、彼はインターンを実施した企業には就職しなかったものの、この時の機会を活かして知り合った人の縁を通して、今の職場への就職を決めた。
だが彼は、今、またしても悩んでいるようだった。
何に悩んでいるのかと言えば、地元に戻ってから、さらに色々と知人も増え、世界の広がった彼は、実は地元にも「仕事」の機会は溢れていることを知ったのである。
彼の知った地元の実態とは、巷でよく言われるような、「田舎には仕事がない」ということではなく、仕事はあるが、季節的に働き手を必要とする期間が集中する仕事が多いということであった。
それは、例えば「あおさのり」の収穫であり、みかんの収穫などだ。
彼は今、それら季節的に集中する仕事を整理し、年間を通して回して行けば今と変わらず生計は立てられるのではないかと考えている。
今の仕事に決して不満ばかりがあるというわけではないが、組織の中で働くということに対して疑問を抱いているようでもあった。
この点に関して、保守的な僕は、
「話を聞く限り今の職場でも季節的な要因が多いようだったので、どうせ辞めるならば閑散期にそのような働き方ができないか今の職場に提案してみるべきではないか」
とのアドバイスしかできなかった。
今の日本では様々な意見はあっても、正社員という立場は一定の安定感をもたらしているのも事実であると僕は考えている。
また、職場側からしても、今まで職員教育してきた人材をむやみに手放してしまうのはもったいないと感じるのではないかと思ったのだ。
僕は経営層側に回ったことがないので、このような場合に実際に経営層が他の従業員との兼ね合いを考えた上でどのような判断を下すのかは分からない。
また、僕のアドバイスを受けたことで実際に彼が今後どのような行動に移るのかも不明だ。
ただ、今回僕が彼との話を通じて気付かされたことは、「田舎にも仕事はある」という事実である。
彼と話している中でも感じたように、それは通年で決まった仕事がある都市の働き方とは異なり、非常に季節労働的である。
しかし、どの時期に、どのような仕事があり、その労働需要がどれほどあるのか?
この情報を上手く整理して、適切に提供することができれば、生活コストを下げる余地の大きい地方部での働き方はデザインできるのではないか?
移住を希望している人達にしても、若年層が気にすることの一つは仕事の有無である。
こうした情報の整理、提供、生活デザインの提案ができれば、先に書いた空き家の問題とも合わせて、この町への移住を検討する人も現れるのではないかと感じた。
無論、この考えはまだ何一つ実際には形にはなっておらず、多分に絵空事ではある。
ただ、問題を抱える一方で、美しいリアス式海岸の景色を持つこの町にもまだ可能性があるのではないかと感じられたことが、今回の訪問で最も実になる気付きの一つだった。