地域は本当に移住者を増やしたいのか? 〜とある地域の不動産事情〜

先日、とある機会を捉え、三重県のとある町を訪れた。


なぜ訪れたかと言えば、以前に名古屋でその地域の人たちと飲む機会があり、その席が盛り上がった中で、
「次回は是非名古屋ではなく、実際にその町を訪れて、その地域に触れ、そしてそこで美味い酒を呑み、地域の美き物を堪能しよう!」
という話が出てきたからだ。


結果的に、この日はかなり前から日程を組んで、宿泊施設の予約も取り、アナウンスをしていたにも関わらず、僕以外の参加者の日程調整があまり上手くいかなかったのだが、それでもなぜか予定通り開催されたことで、図らずも僕一人のための視察ツアーと化した(笑)

 

その町は名古屋からは特急で2時間ほど。
最近では無料区間の高速自動車道も整備されたことで高速バスでも2時間半ほどで行けるようになり、時間的距離としてはかなり近いようにも感じた。

 

以前に名古屋で会合が催されたそもそもの意図も、その地域のファンを増やそうというものだった。
僕は以前にローカル線でその地域を通過した際に、リアス式海岸の織り成す車窓風景の美しさに惚れ込んでいた。


名古屋で開かれた飲み会に誘ってもらった時も、そんな前提もあり、迷わず参加した。

地元の人からその地域の良さを語ってもらい、そして自慢の食材を頂くほど面白く楽しい時間はなかなかない。

 

先にも書いたように、今回の訪問では残念ながら当初予定していたよりもかなり人の集まりが悪く、残念ながら地元の人達と話す機会はあまりなかった。

 

それでも、幾つかの取り組みやトピックを聞くことはできた。


例えば、その町には東日本大震災に伴う原発事故を契機として移住してきた方達がおり、その方達の職業が漫画家だったこともあり、今ではその町を舞台に、自分たちの移住経験も交えた漫画の連載がされている。
また、その漫画家さんたちは元々民宿をされていた大家さんの民宿の軒先を借りて、昼間は地元の食材をなるべく使うことにこだわったカフェも開かれている。
そのカフェは地元のお母さんが子供を連れて地域の人達と関わり合える憩いの場となっていた。

 

他にも、古くからの漁師町であり、趣のある街並みの残る町中では東京のアート関連の大学の先生が作品発表の場としているという。

 

交通インフラが整備されてきた、景色の素晴らしいこの町では、ひょっとしたら今後移住に関して何らかのおもしろいう動きが出てくるのかも知れない。
昼間の視察では本当にそんな気もしていたのだが、夜、町の人達と飲みながら話している中で、およそ都会では信じられないこの町の事実を知ることになる。

 

その事実とは、「町に不動産屋が一軒もない」ということである。


この町もご多分にもれず、人口減少、高齢化、という現象とともに空き家の増加も進んでいる。
また、空き家が空き家のままになっている理由として、仏壇が置いてある、盆暮れに親戚が戻ってきた時には使う(かも知れない)、など、他の空き家に悩む地域でもよく聞く理由が並べられた。


もし本当に移住の促進、そしてそれに伴う空き家の利活用を考えているのであれば、実践はまた別にしても、そういった問題を解決している地域に習い、関係性の作り方などを学べばいいと考えていた。
しかし、この時僕が学んだのは、先にも述べた「町に不動産屋が一軒もない」という事実である。


考えてみれば、高齢化や若年層の流出による人口減少に悩んでいる地域というのはこの町と比べて大差ない、もしくはもっと地理的条件の悪い地域で、僕が知っている空き家の利活用や移住者の促進に積極的に取り組んでいる地域でも状況は似たようなものだったのかも知れない。

 

しかし、少なくとも、僕が知る限り、そういった問題に積極的に取り組んでいる地域は仮に不動産屋がなかったとしても、そういった問題に取り組んでいる人なり地域なりが、移住を検討している人に対して必要となる住まいの提供のために空き家を借りるための条件などをわかりやすいよう提示する努力を行っていたような気がしていた。

 

事実、この話を僕にしてくれた人が教えてくれたのだが、彼が働いているホテルで働く人は町の外から移ってきたいわゆる「移住者」ばかりなのだそうだが、ホテルの用意する寮を除いて、地域で家探しをするのが非常に困難で、結果的には地域で家を探すことを諦め、移住者は移住者だけのコミュニティを作ってしまい、地元と関わる機会も非常に乏しいのだという。


また、いわゆる空き家バンクのような制度も役場で準備されて入るのだが
「どこに、どんな家があり、いくらで借りれるのか?」
という諸条件が最初から見れるようにはなってはおらず、登録者にしか見れないようになっているのだという。


役場の職員の方は決して面倒臭がっているわけではないと思う。


ひょっとしたら、狭い地域の特性として、安易に貸出し条件がわかるようになっていると、空き家バンクに登録した人は近所の人に家を貸し出す意志があることが知られることを嫌ってそのような形になっているのかもしれない。


しかし、現状では移住者の促進や空き家の利活用を目指すには全くナンセンスな状態であり、本気でそういった問題を前に進め、成果を目に見えるような形にしたいのであれば、まずはそこを改める必要があるだろう。


そうでなく、地域の人達と移住者の関係性を丁寧に紡ぎ、着実に話を進めたいのであれば、祭りなどの地域の行事に移住希望者など外部の人が参加しやすい仕掛け、下地を作る必要性があるだろう。

 

今回の件について、その町の方が真剣に取り組み気がないなどと批判する気はサラサラないが、それでも、問題を解決したいと言っている現状が、外から見た時にどのように見えているのかを自分達でも認識するということはやはり大切な視点なのだな、と改めて感じる機会だった。

 

 

南紀の台所 3 (ヤングジャンプコミックス)

南紀の台所 3 (ヤングジャンプコミックス)

 
南紀の台所 2 (ヤングジャンプコミックス)

南紀の台所 2 (ヤングジャンプコミックス)

 
南紀の台所 1 (ヤングジャンプコミックス)

南紀の台所 1 (ヤングジャンプコミックス)